この記事の内容
日本は大きな市場だがユニーク
日本のGDPは米国・中国に次いで世界第3位(2020年現在)であり、それ故、市場規模としても世界的に見れば大きな市場として位置づけることができます。
それはB2C(コンシューマー)にしてもB2B(コマーシャル)にしても同じことが言えますが、今回の記事に関してはB2Bビジネスにフォーカスして話をしたいと思います。
日本が大きな市場であるにも関わらず、いくつかの要因により、国外を主要拠点とするグローバル企業からすると攻略が難しい市場でもあります。
それらの要因とは例えば下記のようなものが挙げられます。
- 英語は使えず、日本語と英語の共通性は低い
- 日本人でも習得が困難な儀礼
- インフォーマルなコミュニケーションの必要性
- 商取引においても人間関係を重視
- 他社との横並びを意識する企業文化
それゆえ、全体的には「魅力はあるがとっつきにくい」というのが日本市場の特徴です。
これらの難しさに対応するために、日本での事業拡大を画策する企業はいわゆる独自の「日本戦略」を作成して来ました。
ユニークさの多くは戦術面での対応
しかしながらそのユニークさという観点で特筆されるのは「文化」であったり「慣習」であったりと対応に必要なアクションのレベルとしては全て戦術面の要素が強いです。
例えば関係性を重視した営業アプローチを行う、ローカルコミュニケーションの部分を厚くするなどといった要素です。
多くの企業が日本のユニークさに対応するために「日本戦略」という名称を掲げながら、その実は「日本戦術」になっていることがほとんどであったりします。
では、戦略面で考慮すべき要素はないのでしょうか?
戦略として考慮すべきは2点: コングロマリットとコミュニティ
筆者の考えでは日本において戦略=すなわち本質的かつ継続的な資源配分に影響する要素は2点あります。
1つはいわゆる「総合〇〇企業」というコングロマリット形態の企業あるいはグループ会社群への対応
もう1つは同一産業内での企業間コミュニティによって形成される共争(Co-petition)状況です。
一つずつ見ていきましょう。
まず「総合〇〇企業」についてですがこれは総合商社であったり総合電機メーカーであったりという形態がイメージできると思います。
これらの形態の企業が市場に存在しているということは単体事業で経営している事業体にはなし得ない資源の入手や経営判断の可能性があるということです。
例えば、総合電機メーカーの場合、単体の家電事業や社会インフラ事業などに比べてその企業規模の大きさからより優秀な人材を採用しやすいという可能性がありえます。
あるいは企業規模および複数事業からなるポートフォリオ効果によって資金調達が行いやすいというアドバンテージも発生します。
逆の面としては他の事業に足を引っ張られたり、意思決定スピードが遅くなったりという面もありますが、いずれにせよ通常の挙動では考えられないリソースの使い方ができるマーケット参加者がいるというのが一つ目の特徴です。
2点目の企業コミュニティの存在は非常に扱いが難しい問題です。欧州であれば独占禁止法の制約で禁じられているような同業他社間での接触が日本では日常的に発生します。
しかも技術集約性が高い産業においては国家プロジェクトという形で競合同士が集まって企業のみならず政府の資源も投入することによって経営資源(技術インフラなど)を共同構築するという商慣習も存在します。
これらの要素は日本という市場環境においてどのように資源投入するべきかという戦略面での考慮に一定の影響を及ぼします。
縦と横を意識した資源配分ができるか
上記の日本特異な市場環境は戦略面での資源配分に影響を及ぼすということを申し上げましたが、ではどのような検討をすれば良いのでしょうか。
ここでは「縦」と「横」という表現を用いますが上記市場環境の特異性を端的に表現したものです。
「縦」とは総合〇〇企業における縦方向、すなわち本社や持株会社の存在を表します。一人ボスを倒してもその向こうにさらに大ボスがいるという表現にもできるかと思います。
ここでの資源配分の考慮はそのような大ボスである本社の意思決定や資源補助やあるいは介入に対応するための資源投入を行い真っ向から取り組む姿勢でいくのか、あるいは逆に不透明性が高すぎるものは相手にしないという対応を取るのかだと思います。
本社の存在が無いものとして無策でいるのはあまりにも安易な選択になろうかと思います。
他方「横」については産業内コミュニティでの横連携による影響を加味した資源配分のことを指します。
この状況に対する資源配分特性としては同一産業の参加者としてそのコミュニティへの深い参画を狙うのか、あるいは所詮は外資系だからそこには入れないと見切るのかのいづれかと思われます。
コミュニティへの参画を考える場合には、グローバル企業の本社とのコミュニケーションが非常に難しい、場合によってはそれは独禁法違反ではないのか、と捉えられる可能性が高いので位置づけやリスクヘッジのやり方についてしっかり連携することが必要です。
最後に
大きいながらにして奇異な市場である日本に取り組むグローバル企業は皆それぞれの工夫をこらしてきました。
それには戦術面での工夫もあれば本質的な戦略面での資源配置によるものもありました。
外資系企業で日本へのアプローチを本社に対して説得している皆さんにとって何かしらの参考になれば幸いです。
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